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「欅平」から日電歩道を行く6 [黒部川釣行記]


酔っ払いの話で恐縮だが、例えば2人で飲んでいるときに片方
がベロベロに酔うと片や1人は、不思議にシャンとしてしまう。

同じように飲んでいても、酒が醒めてしまうらしい。街で見掛け
る酔っ払いは、それが3人でも5人でもその中の1人が悪酔い
すると、残りの数人はなぜか介抱などしたりして、それとなくシ
ッカリしているから面白い。

特別な場合を除き複数でベロベロになっているのをあまり見掛
けない。多分、野宿のグループも中の1人がバテてしまったの
だろう。

kebari.jpg
これは、元職漁師のS氏から戴いた毛バリである。
前にも説明したが、「海津ばり」に鶏の毛を簡単に捲いた
もの。海でカイズを釣るときに使うハリは丈夫で鋭い。
大イワナが掛かっても、容易に曲がったり折れたりしそう
になかった。(大きさは12号)


急な上り坂を登りきった所で私は、Kちゃんを促して休むことにした。
そして、ザックから密かに持ってきた酸素ボトルを一本彼に渡した。
彼は「そんなもの要らない」という表情だったが笑いながらしぶしぶ
受け取った。

私は、どれ程効果が有るのか試してみたかったのだ。2人でニヤ
ニヤしながら吸っては吐き、吸っては吐きを繰り返した。

効果抜群を期待していたのだが、残念というか特別な効果は無
かった。2人共、酸欠になるほどは参っていなかったのだろう。

もっと息苦しい動けない程の状態なら格段の価値があったかもし
れないが、この場合は無用だったらしい。

ヒマラヤ登攀でもあるまいし、なんとも大げさな、重さは無いが余計
な荷物、やはり必要な携行品ではなかった。

ただ、いざという時の心の安心感を携えたのだと言い訳しておこう。

さいわい2人共まだ体力が有ったという事である。
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「欅平」から日電歩道を行く5 [黒部川釣行記]


オリオ谷の近くだったと思うが谷が崩れて水平道が途切れてい
る個所が有った。毎年雪崩に遣られて水平道を維持することが
出来ないらしく、その部分だけ隧道になっていた。

やっと人1人が通れる位の狭い横穴になっていた。幅1m、高さ
1m、長さ5・60m 位の、もし上の岩が崩れたら生き埋めは間違
い無さそうな隧道だった。

tonnel.jpg
絵は写真が無いのでイメージを描いたものである。右の黒い穴が
入り口で左へと通じている。中央のガレの下は川まで約200m
位あって、雪崩の通り道らしく、これでは、幾ら水平道を修理して
もひとたまりもないと思った。

懐中電灯で探りながら少しづつ進んだ。気を付けないと肩や頭を
削った岩の出っ張りにぶつけそうになる。持参しなかったがヘル
メットの必要性を感じた。

冷たい水滴が滴り落ちる暗い中を、中腰で注意しながら、なんと
か通過した。一般的には5時間位で阿曽原小屋まで行けると何
かに書いてあったが、自分達は余計に掛かるだろうと6時間位を
所要時間として計画していた。

途中上流を目指す何人かの登山グループと出合った。オリオ谷
を過ぎて道が少し広くなった辺りで、3・4人グループが道端にテ
ントを張っていた。

「ここでキャンプ?」と聞いたところ、「もう駄目だ、バテバテだ、、
、。」と苦笑いしながら答えた。汗びっしょりで、かなり参っている
様子。この場所で一晩過ごすらしい。



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「欅平」から日電歩道を行く4 [黒部川釣行記]



遊園地のオモチャような列車は風を切って走り左右の景色も
よく見えた。途中、黒薙川・猫又谷・不帰谷を横切る。黒部川
本流に注ぐそれらの沢は思いのほか激流である。

観光で眺めるのと違って、その凄まじい流れは遊覧気分を打
ち消し、現実に引き戻すのに充分な光景だった。

その迫力は、目指す「東谷」付近の流れの険しさを思い知らせ
ていた。「果たして東谷出合の本流を渡れるだろうか?」
不安が頭をよぎり身の引き締まるような感じでもあった。

トロッコ列車は、様々な目的を胸中に秘めたそんな人々を乗せ
て高所を静かにゆっくりと走り終点の「欅平」に到着した。

駅前から急な坂道を日電歩道まで200m登った。身体が慣れ
てないから非常にきつい。喘ぎながらなんとか水平道に着いた。
目標前方に延々と日電歩道が続いている。

その道を二人で黙々と歩いた。山の横壁を削って造ったのだ
ろう、高い所によく造ったものだ。左手の眼下には黒部川中流
域本谷が滔々と流れている。晴天で暑かった。

日電歩道は水平道とも言われているが、それは全体的に見て
の話である。各所にアップダウンが有り部分的には厳しいアル
バイトも強いられる。

山ひだを縫うように進むと、道の角度が変わって時折、心地よ
い風が汗だくの身体を冷やしてくれてホッとする。帰路に気づ
いたのだが、水平道全体は大きく見てゆるい傾斜で登り道に
なっている。


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「欅平」から日電歩道を行く3 [黒部川釣行記]

 黒部峡谷鉄道は快適だった。宇奈月から欅平行きの朝一番は
8時頃と記憶しているが、宇奈月駅前には5・60人の出札を待つ
行列ができていた。

彼と私は、乗車予約の賜で、座れるかどうか不安げに待つ長蛇の
行列を尻目に先頭のグループより先に乗車することができた。

こういう待遇があるとは知らなかった。ただ、確実に乗れれば良い
位に安易に考えて予約したのだが、優先的に指定席扱いで列車
の一番前の席に座れるとは思っていなかった。

行列で待っている人達は、予約を知らないか、もしくは知っていて
も面倒な理由でやむなく行列しているのだろうと想像した。

幸先の良いスタートで彼と私は満足だった。多分、その時の二人
の表情は得意満面だったに違いない。機転を利かして予約してお
いて良かったのだ。

yamamiti.jpg
水平道は部分的にこんな平坦な道もある。
左下は黒部川まで約200mの断崖になっている。
全部がこういう道なら歩き易いが、こんな所は、
ほんの僅かだ。

ただ、今思うと、日電歩道を阿曽原小屋までの道すがらの写真が
残っていないのが非常に残念である。

数箇所を撮影した記憶はあるが何処かに仕舞い込んだか、あるい
は、良く撮れてなかったので捨ててしまったかのかも知れない。

「目的地になんとしても到着する」ことに夢中になっていて、正直言
うと写真を撮る余裕などなかったのである。写真は後日のもので、
写真が無いとさみしいので適当に絵や後日撮った写真を挿入した。



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「欅平」から日電歩道を行く2 [黒部川釣行記]

013.jpg
本流の所々は雪渓で途切れていた。


 黒部川下ノ廊下には、左岸に黒部ダムから欅平まで、およそ高さ
200mの日電歩道が平行している。水平道と呼ばれているこの道
を歩き、途中の阿曽原小屋でキャンプ1泊、翌日に「東谷」を目指
す計画である。

この日電歩道と同じように、黒部川中流はダム発電所の保守用らし
い関電のトンネルが通じているが一般者は利用できない。聞くとこ
ろによると、我々が徒歩で何時間も掛かる道程を僅かな時間で通過
できるそうだ。ただ、トンネル内は40℃以上の高温になっている
らしい。

思うに、関電の関係者と懇ろ(ねんごろ)になってこのトンネルを
使えたとしても、暗い隧道を周りの景色も見ないで利用したくはな
い。一歩一歩自然を満喫しながら行くアプローチ、辛く苦しい行程
と重なるところに妙味が有る。

一度位は話の種にトンネル利用を経験してみるのは良いとしても小
細工をしてまでやりたいとは思はない。確か、何時間も掛かる行程
をわずか一時間足らずで到達できるようだ。

以前、何かの本で読んだことがあるが、或る人は、黒部渓谷をこの
トンネルを利用して行き、黒部下ノ廊下を記事にしていた。それは、
途中の行程を省いたものであった。

大げさに例えると、可能、不可能は別にして「エベレスト登山」に、
ヘリコプターで頂上まで直接登頂して、エベレスト征服と言ってい
るようなものだと思う。また、ベースキャンプから徒歩で登頂する
にしても、その為には、シェルパーなどの多くの人々の手助けがあ
ってはじめて達成される。その意味で単独登頂は、特別な価値があ
るのではないかと思えてならない。

話は戻るが、この計画にキャンプでなく阿曽原小屋に宿泊も考えた。
欅平から阿曽原小屋まで何時間掛かるか判らないから途中でバテて野
営する事も念頭に置く必要があった。また、早朝、夕暮れお構いなし
の釣りだから、好きな時間に出入り自由のテント泊は我々の常用にな
っていた。

今回も、寝たいときに寝て食べたい時に食べる気ままに過ごせる
テント泊に決めた。


「欅平」から日電歩道を行く1 [黒部川釣行記]



ある時、この「東谷」に1人で釣行する経緯と計画を、毛バリ釣り
の数人の仲間の会合で話したところ意外にも、その中のKちゃんが
一緒に行くと言い出した。私より一回り大柄で10歳程若く、自分
より更に毛バリ釣りにのめり込んでいた。

彼は、水泳はマスター級だと言っていた。自称マスター級の彼の言葉
は、渡渉にあまり自信のない自分にとっては心強い同行者でもあり、
渡りに舟で、1人で行くより話し相手として二人の方が楽しいからと、
一緒に行くことにした。

あとで判った事だが、彼の目的は「東沢」などはどうでもよくて、
「黒部の下ノ廊下でイワナを釣る」事だったらしい。

「東沢のイワナを確認する」という一つの目標を目指して一緒に遡行
してくれるものと心強い同行者を得て内心喜んでいたのだが、お互い
に別の目的で便乗しただけの同道だった。


実行の日程は、8月13・14・15日のお盆休みの12日の夜出発
で、13日・14日キャンプ2泊、15日に帰路に就くという、計画
を企てたのである。

黒部川下流の宇奈月駅から欅平までは黒部峡谷鉄道が走っている。
宇奈月駅前は大きな駐車場になっていた。彼と私は、明日朝一番の
トロッコ鉄道の発車までの間、その駅前の駐車場にテントを張り、
仮眠することにした。乗車までの時間待ちである。

折しも8月夏の観光シーズンである。大きな荷物もあり初めての乗車
ということもあって、どんな混雑か判らないため用意周到、埼玉から
銀行振込で乗車の予約をとっておいた。もし、満員で乗り損なえば、
道程の長い一本道でやり直しは効かない。まして、一年に一度だけの
機会である。念には念をという事だった。明日の事を考えて二人で簡
単に酒を酌み交わし、早々と寝袋にもぐり込んだ。



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